今回御案内させて頂く一樽は、東京・吉祥寺にあるオーセンティックバー、BAR REDROSE様の15周年を記念した特別なボトルです。シングルカスク・カスクストレングスでのボトリングです。
中身の蒸留所は非公開ですが、“ラ”から始まり、“ン“で終わる、アイラ島南部のシングルモルト。今回、選定したカスクは、同店のオーナーバーテンダー 「中村 隆太氏」の要望から、中村氏が愛してやまない“葉巻”にインスパイアを受けた、「シガーモルト」のテーマで選定させていただきました。
---以下、オーナーバーテンダー中村隆太氏による、本ボトルへのコメントになります---
ダルモアを筆頭にこれまでリリースされてきたシガーモルトは「フルーティなモルトをオロロソで」と人口に膾炙されてきました。
確かに、この組み合わせは多種多様なシガーに対してオールラウンダーであると言えます。しかし、より力強く凝縮感がある例えばニカラグアのようなシガーとのペアリングに於いては「ピーティなモルトをペドロヒメネスで」というのもまた一入なのです。
シガーモルトにはしっかりしたボディ、コク、奥深いスパイシーさが求められますが、ただそれだけではリヘロの含有率が高いストレングスや、シガー自体が稠密で深煎珈琲やビターチョコといった濃厚なアロマまでをも既に兼ね備えていた場合、モルトのストラクチャーに若干の物足りなさを感じていた方も少なくなかったのではないでしょうか。
仮に折角カルヴァドスを合わせたとしても肝心のリンゴ感がシガーの重層感に掻き消されていてはマリアージュの意味を成していません。そこでモルトに適度なピートが加わることに因り蒸留由来の革や莨感も際立ち、口内に残留した油分や紫煙の馥郁との相乗効果が齎され、味わいの幅を一層拡げます。とは言え、それだけではシガーとモルトがぶつかり合ってしまいます。そこで淡いタニックなペドロヒメネス樽由来の コニャックやダークラムにも似たメロウな甘味と呼び起こされた華やかなエステル香が、シガーとモルトの調和に一役買うという訳です。
また今回ラベルの意匠はかつて茶懐石の待合で用いられていた煙草盆から着想を得ており、形状は格狭間、文様は蒟醤、山吹色に輝くタイトルは象嵌をそれぞれ表し、紙質は伊勢の煙草入れへのオマージュとして革に擬えた和紙を採用いたしました。
最後に、イアン・マクロード・ディスティラーズのブランド開発マネージャー、ゴードン・ダンダスの言葉をご紹介します。
「シガーモルトを楽しむために必ずしもシガーを吸う必要はありません。シガーモルトは、それ自体が極上のウイスキーですから」
---Tasting Note ---
しっかりとした太いピートスモーク、煙を上げて焼ける肉の香り、レーズン。ムール貝のトマト煮、焦げたチリソースやBBQソース。燻製ナッツ、デーツ、タバコの葉、かすかにフローラル。
口に含むと、しっかりとしたアイラピートスモーク、程よい甘さを持つシェリーカスク、レーズン、岩塩。旨みとスパイス、BBQソース、パンチェッタ、アーモンド菓子。
フィニッシュは、パワフルな余韻が続き、牡蠣のようなクリーミーさとソルティーさ。次第に干し草のような乾いたビター感、次第にまとまりが生まれバランスが良くなっていく。
TASTED BY 中村 隆太氏